基本アプローチ
「人間」と「空間」を、デザイン議論の中心に。
Space - 空間は、建物の中や周囲、街路などあらゆるところに存在する「空」の部分であり、それぞれに「形」を持ち、互いに繋がりあっています。人々はそれらの空間の中で移動し、立ち止まり、周囲を見渡し、そしてまた移動します。空間の状況は、人々の活動や感じ方などに様々な影響を与えます。
Syntaxとは、言語学における「文中での単語と単語の関係」を扱う学問です。単語と単語の繋がりをきちんとつくることによってはじめて、文が意味を持ちます。空間についても、街の広場や街路空間など、それぞれの関係をうまくつくることによって、そこを使う人々にとってより良い意味をつくることが出来るのではないか、というのがSpace Syntaxの発想の原点です。
では、うまくデザインされた「空間」ってどんなもの?
時として大きな関心を集める新規の商業施設や、複合施設等の再開発、また、都市の広場や街路などの社会基盤整備は、大きな投資に見合う効果が期待され事業が進められます。これらのプロジェクトでは、建築家、プランナー、エンジニア等、多くの専門家によって、プランやデザインの検討がなされます。しかし、実際にできる空間のイメージを多くの関係者が共有することは容易ではなく、スケッチ、パースなどによって描かれる完成予想図は、しばしば、一部の表層的なイメージのみになってしまいがちです。
出来上がった場所に対する実際の評価は、「人がどのように使い、感じているか」ということでしょう。期待に反して、人にあまり使われない空間は様々な問題を生じさせます。例えば、開業後のほんの数年で、空きテナントが多くできてしまった商業施設などです。これらの場所は経済的・社会的に有効に使われていないだけでなく、人々に寂しい印象を与えたり、さらには治安面の不安などにつながる恐れもあります。
「簡単に言えば、いい空間とは、良く使われている空間である」
(Prof. Bill Hillier)
「人通り」は、街路にストーリーを与えます。
そして、そのストーリーは場所の経済や治安などにも影響を及ぼします。
そもそも、街の魅力とは何でしょうか。他者の存在を適度に意識しながら、周囲に起こる無数の未知の出来事を観察する・・・あらゆる職業、年齢、経歴、生活を持つ人々と同じ空間ですれ違う・・・。街を楽しむこととは、社会との繋がりを無意識に感じ、刺激を受けつつ、安心しながら時間を楽しむことかもしれません。ある瞬間、ある公共の空間、場所に人がいるとき、そこにいる「理由」のほとんどは、どこかに行く途中に通りかかるということです。これは、街で人の動きを観察すれば容易に理解できます。
そして、人の存在は、他の人の行動に影響を与えます。ある街路に人が通る。これは、商店主にとっては客を得るチャンスを意味します。また、ある街路に人が通る。これは、空き巣や誘拐をねらう犯罪者にとっては「監視の目」を意味します。
つまり、自然な人通りが場所の雰囲気をつくったり、潜在的な土地利用を変えたりすることになります。空間のレイアウト(繋がりかた)が人の流れをつくり、人の流れが空間の性質を決めるということが言えます。
どうすればより良い状況をつくることができるか?
まずは「その場所と周辺の、現在の状況」を深く、
客観的に理解することから。
車輪をつくりましょう。30本のスポークを中心のハブに結びます。そのとき、真ん中に孔 -空の部分- をつくるのをお忘れなく。さもなければ車輪としての用を成しません。
壺をつくりましょう。粘土を使って、様々な形の壺をつくることができます。そのとき、その中の空っぽの部分が、壺の本当の機能であることをお忘れなく。
部屋をつくりましょう。壁に窓を開けて、扉をつけます。部屋はどこですか?その中にある、空っぽの部分です。
空間とは、「何にもない」部分です。しかし、そこで何かが起こる。それこそが機能なのです。