『徳島の街を考えた』
を、四半世紀ぶりに振り返る
アーカイブサイト
1998→2023

ようやくコロナ禍が過ぎ去りつつある2023年春、徳島では芸術ホールや西新町再開発についての論争が今も続いていた。街には、多くの新たな幹線道路、拡幅し車線が増えた道路が目立つ一方で、まちなかの賑わいは乏しい。これは、皆が思い描いた21世紀の徳島の姿だったのか?

ちょうど25年前の同じ季節に、徳島の街の未来について真剣に考えた若者たちが、小さな展覧会を開いた。場所は、東新町ヒラオカビル。当時すでに議論されていた「芸術ホール」の計画・設計について提案することを通して、街の今後について問題提起をするというものであった。

このサイトは、この展覧会をあらためて公開・アーカイブするものである。当時の提案・考えたことを振り返りつつ、「徳島の街」のその後25年の変化と、現在、今後について、落ち着いて考える機会にしたい。

開催概要

期間:1998年3月14日(土) ~ 22日(日)
会場:東新町・ヒラオカビル イベントスペース

第Ⅰ部 大切にしたい5つの要素

Suggestion1.記憶の継承

慣れ親しんだ風景が姿を消すのは、誰にとっても寂しいものです。しかし、老朽化し、時代に合わなくなったものは、更新される運命にあります。動物園、児童公園はこれまでの48年間、市民が気軽に訪れることの出来る場所として、親しまれてきました。その親近感を失うことなく、さらに発展させるために、中央にやすらぎのある広場を配置します。また、場のシンボル的な存在である観覧車を新しく再建することにより、風景の記憶を保存します。

Suggestion2.水都の新世紀

「水の都」という言葉は美しい都市に贈られる称号である、とも言えます。国内、海外の多くの都市では、水辺という資源を生かして、すばらしい景観、都市空間をつくっています。徳島は、その地形的、歴史的な「水都の素質」を十分に生かせているでしょうか?私たちは、戦後の街づくりの失敗を責めるつもりはありません。それは、日本中のほとんどの地方都市の問題だし、その先輩方の努力によって今の豊かな生活があるのだから。

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時代は変わりました。水際公園、ボードウォークもできました。ただ、今必要なことは、市民がもっと水辺のすばらしさを感じることです。私たちは、この新施設を、新しい時代の、水都・徳島のイメージシンボルとして考えます。

Suggestion3.芸術の鼓動

わが国は、今、成熟の時代に向けての転換期にあるようです。私たちに必要なのは、感動を分かち合える体験ではないでしょうか。質の高い芸術作品を鑑賞するためのホール・劇場のほかに、より深く、より身近に芸術を理解するための教育施設や、創造者の集うサロン的な場所など、常ににぎわいのある『共感のステージ』として、この施設を考えたいものです。

Suggestion4.聾学校との共演

最近、教育施設を地域に向へて開く、オープンスクールという考え方が広がりつつあります。これは、学校を地域に向けて開くことにより、相互の理解を深めようという、前向きな動きです。

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新施設と聾学校の間の塀は必ずしも必要なものではないと考えます。 壁のない交流によって、聾学校の生徒がこれまで以上に自由に遊べるような環境づくりをめざそうと考えます。

Suggestion5. 交通の五感

日本の地方都市はモータリゼーションが急速に進み、1人に1台の時代となりつつあります。徳島も例外ではありません。確かに自動車は快適です。 ただ、歩く楽しみを忘れてしまうことは、大変残念なことです。 ・・・心地よい風を受けて走る自転車の高校生のみなさんも、たまには自慢の愛車を駐輪場に止めて、しばし歩いてみてはいかがでしょう。

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今回の芸術ホールでは、敷地周辺の道路の幅員が狭く、駐車場待ちの自動車で非常な混雑を招くことが予想されます。よって、敷地内の駐車場は身障者、高齢者など、必要な車両のための最小限の台数にとどめ、それ以外は少し離れたところに設置します。そこからホールへのアクセス道路は、芸術の鑑賞という体験を演出し、さらに私たちに街の魅力を再発見させるような歩行空間であってほしいものです。

第Ⅱ部 芸術ホール設計案

あとがき

先日、新町川沿いを歩きながら25年前を振り返りました。そして、この展覧会について記録を残していないことに思い至り、このウェブページをつくることにしました。正直なところ、現在の徳島の街の姿は、想像していたよりもかなり「残念」な状況です。いまだにホールが実現していないことはさておき、場所場所の記憶や街全体の魅力がどんどん失われてしまっているのではないかと感じます。
この展示内容をあらためて示す目的は、自分たちの考えは正しかったと殊更にアピールすることでも、ただ過去を懐かしむことでもありません。その後、様々な実務を経験し、徳島のような地方都市の未来に貢献したいと思いながら、いまだ出来ていない現状を直視しつつ、「徳島の街を(もう一度)考える」機会になればと思っています。

高松 誠治

1998(当時) | 東京大学大学院社会基盤工学専攻 博士課程1年
2023(現在) | スペースシンタックス・ジャパン株式会社 代表取締役

岡 昇平

1998(当時)| 日本大学大学院芸術学研究科 修士課程1年
2023(現在)| 設計事務所 岡昇平 代表

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